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杉ようかん
    写真は杉ようかん「南風屋」(はいや)製
 
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食感は餅なのにようかん?/天草・崎津集落の伝統和菓子「杉ようかん」/ルーツは琉球か?

世界文化遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」で構成資産の一つ熊本県天草市の崎津集落には約230年前から作られているという伝統和菓子「杉ようかん」がある。一体どんなものなのか、集落のシンボル、崎津教会前でお菓子を製造販売している「南風屋」(はいや)を訪ねた。

民家を利用した店頭には「杉ようかん」ののぼりがはためき、販売されていた。すぐ様目に入るのはスギの葉。白生地に紅色の線が引いてある。縦11センチ、横8センチの長方形をしたようかんを葉でサンドするように乗せてある。葉を剥がすとほんのりとスギの香が漂う。やわらかい食感で中にあんこが入っている。これはどうみてもようかんというより餅だ。

宰川寿之さん(80)によると原料はうるち米で、蒸してついた餅をのばし、小豆のこしあんを包む。その後、蒸篭(せいろ)で蒸し、縁起ものの紅が引かれ、スギの葉を添えて出来上がる。こだわりは添加物を一切使わないこと。食紅ではなく、ドラゴンフルーツを使い紅く発色させた。

伝承によると、江戸時代に琉球(沖縄)から伝わったという。後継者不足で一度途絶えたが、2006年、富津地区振興会長だった宰川さんらが中心になって崎津の特産品にしようと試行錯誤を重ねて復活させた。「観光客から餅ではなく、何でようかんなのかを聞かれると、分からずに困っている」と話す。

500年前の室町時代後期から和菓子屋を営む「とらや」の菓子資料室虎屋文庫(東京港区)によると、一般的に知られている寒天を使って固める「煉ようかん」が登場するのは江戸時代後期の1800年頃。それ以前は、小豆、小麦粉や米粉、葛粉、砂糖などの生地を蒸す「蒸しようかん」だった。「杉ようかん」は「材料からみて『蒸しようかん』だろう。『ようかん餅』の呼び方もある」という。なるほど餅のようなようかんがあることが分かった。

伝承について、市文化課学芸員の中山圭さんに聞くと1790年、徳川家斉の将軍就任の祝義のため、琉球王国の使節団59人が乗った1艘の船が薩摩を目指したが、逆風で崎津に漂着した。救助された際にお礼にと作り方を伝授したという。その後も琉球から崎津に来た記録があり、何らかの交流があったと思われるが、残念ながらようかんを伝えた記録はないという。(註1)

取材を進めてゆくうちに宮崎市佐土原町に「鯨ようかん」や大分県玖珠町の「平川ようかん」など似たような蒸しようかんがあることが分かった。ルーツを知る手がかりは沖縄にあるのではないか。同じものが今も残っているのかも知れない。

琉球王朝菓子を長年研究している琉球料理保存協会の安次富順子理事長(那覇市)に「杉ようかん」を送り、琉球菓子と比較してもらった。すると「沖縄では餅は臼でつくのはまれで、もち粉をこねてこしきに流し込み、せいろで蒸す。また蒸しようかんは豆の加工品で、米は入らないし、あんこを挟むこともない。そのものずばりのものは見当たらず、結びつきが分からない」と話す。結局、沖縄に同じものは現存せず、謎は深まるばかりだ。

(金子寛昭/20230415)

◎註:
(註1)1790年、琉球王の使節団が漂着。
寛政二庚戌(1790年)
七月十六日琉球中山王より今般 公方様就御代替御祝義之使者被差越候琉球船壼艘崎津
湊漂着名前正使宜野湾王副使幸地親方讃議官田里親雲上楽正識名親雲上塾役人仲嶺里之
手楽師四人楽童子二人都而之主従廿六人船頭水主廿七人合五拾九人當月十一日琉球出船
洋中依不順風如薩州難乗得崎津湊え漂着之由宗旨之義儒家真言禅宗之者之由
『天草郡資料』(第一輯)所収
上田宜珍「天草島鏡」(1802年)天草年表事録(158頁)
編者天草郡教育会、名著出版、1972年9月29日。

◎取材協力:
「とらや」菓子資料室虎屋文庫(東京港区)

琉球料理保存協会の安次富順子(あしとみ じゅんこ)理事長。
著書・安次富順子「琉球菓子」沖縄タイムス社、2017年7月1日。「母と娘が伝える琉球料理と食文化」「琉球王朝の料理と食文化」などがある。 琉球新報賞受賞

関連記事:西日本新聞20234年月9日付朝刊。金子寛昭「あん入り、食感は餅なのに「ようかん」…熊本・天草の崎津集落名物の謎を追う」

 
     
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