むたゆうじ
  風の記憶  
 
詩・曲・歌/埋田千聡さん
 
 
それは ある晴れた 五月の 空高く
ひとつの命が 風にのって 消えていった お話
シジュウカラが 平和を歌う 若葉が 萌えるふるさと
次第に細くなる 母の呼吸 小さく やつれていく 微笑み
「朧月夜」を 歌ってほしいと 病の床から せがまれて
習い始めた ギターつま弾けば 母の胸いっぱいに 春の風
瞼の奥に 母のふるさと 十五で離れた 遠いふるさと
菜の花畑に おぼろ月 「お母さん」と呟いて 涙こぼした母
やがて眠りは 深くなって 夢とうつつを 旅する母は
「ありがとう。しあわせ」と 繰り返す 母の寝顔に ありがとう
私が歌う 「朧月夜」 母の命の 子守唄
母の瞼に 光る涙 五月の風が 窓を叩く
「お母さん!お母さん!お母さん!お母さん!」 呼んでも返事は なかった
母の呼吸は 風にのって 五月の空高く とけて消えた
窓を開ければ 夏の風 レースのカーテンが 揺れる
この胸いっぱいに 深呼吸 胸に薫る 風の記憶