新たな妖怪30体見つかる!
「百鬼夜行絵巻」
熊本県天草市の民家に伝わり、様々な妖怪や鬼たちが描かれた「百鬼夜行絵巻」(ひゃっきやぎょうえまき)にこれまでにない全くオリジナルの妖怪がおよそ30体描かれていることが広島県三次市にある日本妖怪博物館(三次もののけミュージアム)の調査で分かった。同種の絵巻は現在、知られているだけでも80本以上が存在し、さまざまなバリエーションがあるというが、同館の吉川奈緒子学芸員は「この絵巻独自の個性豊かな妖怪たちで、ユーモラスな仕草や目つきは親しみやすい魅力に溢れていて、描かれる妖怪たちも楽しそうで、魅力的な作品だ」と話している。
絵巻物は和紙を縦横に貼り合わせ、縦26.5センチ、長さ998センチもある大きなもの。拍子を頭に乗せた器物の妖怪などから始まり、101もの妖怪たちが行列をなして練り歩く様を描いている。絵師の落款(らっかん)、印章はなく、作者は不明。同市の元医師で薩摩藩にゆかりのある高木聰さん(83)宅に代々、伝わったものだ。
2017年に福岡市美術館の中山喜一朗総館長が現地を調査。(註1)中山総館長によるとこの絵巻は江戸時代後半から末期(19世紀)に描かれた狩野派絵師の粉本(絵手本)とみる。最後の場面で「柊鰯」(ひいらぎいわし)(註2)や鬼が退散するシーンを描いたものは「発見例がなく、大変珍しい」ということが分かった。
また日本妖怪博物館は2023年9月から12月まで百鬼夜行に関する絵巻や焼き物、おもちゃなど様々なジャンルの作品を一堂に集めた企画展を開催。高木家の絵巻を借りて展示する際に詳しく比較調査を行った。
「百鬼夜行絵巻」が一体、何を絵画化したものなのか諸説があるが、吉川学芸員によると同絵巻は室町時代に土佐光信が描いたとされる京都市大徳寺の真珠庵に所蔵されている現存する最古の「百鬼夜行絵巻」(大徳寺絵巻=国指定重要文化財)(註3)には70体ほどの妖怪が登場する。そのうちの65体が共通しているが、直接模写したわけではなく、妖怪の服装や持ち物など、細かい違いがたくさんある。残りの35体の出所については今回調べてみた限り、ほとんどわからなかったという。
国際日本文化研究センター所蔵の「妖怪絵巻」に登場するひっくり返した大きなかごや鐙(あぶみ)や笊(ざる)などの妖怪も見ることができるが、姿やポーズがぜんぜん違い、源流は違うと思われる。
道具が妖怪になったパターンが多く、袴(はかま)や銭(ぜに)の妖怪などオリジナルのものは最大30体ほどいる可能性があるという。「このような珍しい妖怪とラストシーンをもつ作品は、研究対象としても非常に価値が高い」と話している。(金子寛昭)
(2024/2/10)
◎註:
(註1)2017年に福岡市美術館の中山喜一朗総館長が現地で調査。「節分『柊鰯』で鬼が退散 『百鬼夜行絵巻』を発見」(2017年9月3日付朝刊掲載)
(註2)「柊鰯」(ひいらぎいわし)節分に魔除けとして使われる、柊の小枝と焼いた鰯の頭、あるいはそれを門口に挿したもの。
(註3)土佐光信が描いたとされる京都市大徳寺の真珠庵に所蔵されている現存する最古の「百鬼夜行絵巻」(大徳寺絵巻=国指定重要文化財)
◎関連番組:
天草テレビ「百鬼夜行絵巻」天草市で発見」
天草テレビ「柊鰯で鬼退散『百鬼夜行絵巻』天草で新発見!」
西日本新聞「節分「柊鰯」で鬼退散 天草で『百鬼夜行絵巻』を発見 狩野派絵師の手本か」(2017.9.3付朝刊1面)
西日本新聞「天草絵巻に独自の妖怪か 民家に伝わる『百鬼夜行絵巻』に30体」(2024年1月29日朝刊県版)